マジカルコネクションな日々18 「新聞記者」を観ましたか?

昨日、映画「新聞記者」を観てきた。

朝10時20分の上映だったけど、ツィッターを見てる分にはかなりお客さんが入っているようなので、念のためにと上映1時間前に映画館に行ったところ、すでに残席は僅かしかなかった。

テレビではロクに告知がされてなく、主にツイッターで情報をフォローしていただけだったのでそんなにお客が入るんだろうか、あるいは上映中止にならないかと心配していたけど、その必要はなかったようだ。

原作は官邸に物言える唯一の記者として知られる東京新聞の望月記者によるもので、世評がどうあれ観に行くつもりでいた。事前にいろんな人が感想がSNSに書き込まれていて、それらを読んだ限りではかなり面白い作品だと思って観に行った次第だったけど、想像をはるかに超える衝撃的な作品だったし、面白い映画であった。そして、ここまで官邸に喧嘩を叩き付けた映画がよく上映できたなと思った。

この映画がインディペンデントな作品で、上映される映画館も名古屋で言えばシネマテークやシネマスコーレ、東京だと岩波ホールだったらそれもわかるんだけど、メジャーなシネコンで上映されることに意義があった。しかも制作は官邸御用達の読売グループのVAPである。その辺の事情はよくわからないけど。

この映画はもちろんフィクションであるし、モデルとなる人物はいるが、「大統領の陰謀」や「グッドナイト&グッドラック」、あるいは昨年の「ペンダコンペーパーズ」のような実際の話を実在の人物や団体の表記で描いた作品とは異なる。

だけど、この作品で描かれている、公文書の改竄、総理御用達の記者によるレイプ事件の揉み消し、戦略特区による医学部大学院設立に関するスキャンダルと総理の意向の存在、官僚の自殺など、すべてが現実に目の前で起きていたことだった。だから、フィクションであっても、映画で描かれている世界は絵空事でも対岸の火事でもなく、リアルであるからこそ共感できるのである。細部の描写も細かく、内閣情報調査室で多くの職員たちが複数のアカウントを持ちながら、ネットで政権批判をする人(もちろん民間人)に嫌がらせのようなリプを書き込んでいる様にはゾッとして戦慄が走った。主人公である大蔵省から情報調査室に出向している松阪桃李演じる杉原に上司が「民主主義なんて形だけでいい」と吐き捨てる台詞にも不気味なほどに説得力があった。

よく上映できたと感心したけど、それ以前によくこの映画を製作することができたものだ。ハリウッドならともかく現在の日本の映画界だったら企画書の時点で握り潰れたんじゃないかと思うけど、気骨のある人がいたもんだ。松阪桃李も本田翼もよく出演したと思う。もう一人の主人公である韓国人のシムウンギョンが演じた新聞記者役は、ネットの情報によれば当初宮崎あおい満島ひかりにオファーがあったらしいけど反政府映画に出演することの批判を恐れて辞退し、それでシムウンギョンがアメリカで生まれ育った、母親が韓国人という帰国子女という設定にして、日本語があまり流暢でないのを逆手にとった設定になった。宮崎あおい満島ひかり、あるいは石原さとみが演じたらそれはそれで魅力的だっただろうけど、多分演技をし過ぎて駄目だったと思う。韓国人俳優が演じたことで(この部分もネトウヨにしてみれば格好の炎上ネタだろう)、抑制の効いた演技ができたんじゃないだろうか。

政権批判を直球で投げた、日本映画には稀なポリティカルなメッセージの濃い作品であるけど、サスペンス映画のような緊張感がある上質のエンタテインメント作品になっている。それは脚本のよさであり、監督の演出のよさであり、俳優陣の演技の賜物である。松阪桃李、シムウンギョンはもちろん、本田翼、北村有起哉田中哲司西田尚美(本田翼にとってノンノモデルの先輩だ)、高橋和也といった俳優たちの演技が素晴らしかった。反政府映画に出演、という批判を恐れずにこの作品に出演した俳優陣、そしてこの映画の製作に尽力したスタッフの方々には本当に敬意を称したい。世のジャーナリズムやマスコミが忖度ばかりで声高に批判を言うことを恐れている人ばかりだからこそ、この映画が世に出て、大ヒットしている現実はまさに一筋の光である。

シムウンギョンの新聞記者が「本当にこれでいいと思っているんですか?」と問いかけるシーンは、客席にいる僕たちに投げかけられたものであり、日本のマスメディアの人たち、変化はいらないこのままでいい、と現実に目を背けている人たちに「いい加減、目を覚ませ!目を逸らすな」と向けた言葉であり、だから心に突き刺さった。多くの人にこの映画を見て欲しい。心からそう思う。参院選の前にこの映画が公開され、大ヒットしている現実はとても意義のあることだ。このままでいいんですか?言いわけがない。だから投票所に行って、この現実を変えたい。

もっとも、年金なんかもらえなくてもいい。このまま不景気でいい。消費税が上がってもいい。外交なんか駄目でいい。沖縄の海なんか埋め立てればいい。アメリカのご機嫌とってポンコツな兵器を買いまくればいい。韓国なんか国交断絶すればいい。そんな人は絶対観ないだろうけど、そう思っている人にこそ尋ねたい。

 


「本当にこれでいいと思っているんですか?」