マジカルコネクションな日々12 だってロビーロバートソンを嫌いになれるわけないじゃないか。

   この連休の間、ずっと一冊の本を読んでいた。購入したのは名古屋だったけど、宿泊先の神奈川の藤沢から東京、そして郷里へ帰省していた際もずっと読んでいた。もっと早く読み終わるものかと思っていたけど、500ページ以上でしかも2段組という実質1000ページ近いボリュームだから、そんなに簡単に読み終わるわけもなかったんだけど。


 読んでいた本は「ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春」(DU BOOKS)というザ・バンドのリーダーだったロビー・ロバートソンの回顧録だった。ストーリーは初めてギターを手にしたカナダでの幼少期の思い出から、複雑な家族構成、15歳で加入し「金は安いが女はシナトラより不自由させない」と言われたロニー・ホーキンズのバックバンド時代、観客のブーイングと向かい合っていたボブ・ディランのバックバンド時代、ウッドストックでのディランとのセッションとファーストアルバムの制作、結婚、子供の誕生、ウッドストックへの出演、ディランとの「プラネットウェイブス」の制作と大規模な全米ツアー、そしてラストワルツでのバンドの終焉までが克明に描かれてあり、その過程の中にロニー・ホーキンズのバックバンドに加入した時に出会った親友であり兄貴分であったリヴォン・へルムがいて、当初ベースプレイヤーとしては覚束なかった弟分のリック・ダンコ、ピアニストとしてもヴォーカリストとしても飛び抜けていたリチャード・マニュエル、バンドへの加入を依頼した際、音楽の教師として月謝を払っていたガース・ハドソンとの思い出も溢れている。さらにバンドの活動を通じて出会った人には、バディ・ホリー、ボ・ディトリー、ブライアン・ジョーンズ、マイルス・ディヴィス、チャールズ・ミンガスエリック・クラプトンジョニ・ミッチェルビートルズ、無名だった頃のジミ・ヘンドリックスカーリー・サイモンなどが物語の随所に登場してくる。長い話ではあるけど、ザ・バンドのヒストリーとしてはもちろん、黎明期から全盛期に至るアメリカのロックヒストリーとしても極めて面白い。


 ロビー・ロバートソンについては、アーティスト、ソングライター、ギタリストとしての評価が揺るぎないのは周知ではあるけど、世間的に悪評が高いのも有名である。僕は読んでいないが、リヴォンの自叙伝では曲作りに貢献しているのにクレジットはすべてロビーの名義になっていることを非難していたというし(家にあったギターマガジンのザ・バンド特集でロビーとリックの対談が掲載されていてその事が触れられている)、「レコードコレクターズ」の「ラストワルツ」特集で萩原健太さんのテキストによれば、ザ・バンドの解散はロビーが勝手にやったことで、メンバー全員が納得していたわけではなく、「ラストワルツ」も正直やりたくなかった、という内容が書かれてある。萩原健太さんは僕が師匠と仰ぐ音楽評論家として日本でいちばん尊敬する人だけど、ロビーについてはかなり手厳しい。映画でも一人だけしっかりメイクして画面に映り、口パクでやってることを批判し、ドリームワークスの重役の座に座り現役感を失っているというから相当怒っている。
   だけど、以前「サンデーソングブック」の夫婦放談で山下達郎さんと竹内まりやさんが、ロビーが来日した際に食事をした折り(まりやさんはザ・バンドの大ファンだ)解散の真相を訊いたところ、あの頃はメンバー全員がドラッグ中毒でまともにバンド活動ができる状態じゃなかったと語っていた。ドラッグについては本の中でも克明に描かれている。コカインにヘロイン、LSDとまさになんでもやっていたし、実際逮捕されたこともあった。加えてリチャードはアル中でもあった。少なくてもファーストやセカンドまでは家族同然で一枚岩で結束していたのが、ドラッグの過剰摂取により活動がままならなくなり、崩壊寸前までいってたことがわかる。
 もちろん誰の意見が真実なのかはわからない。リチャード、リック、リヴォンが亡くなっているし、ガースはいるけど、嘘であっても嘘だと言う人間が多々いるわけではない。「ラストワルツ」だって、この本では全員が納得した上で行ったことになっているし、綺麗事ばかり並べて自分の都合のいいよう勝手に真実を曲げて、歴史を改竄しているんじゃないかと言う意見だってあるかもしれない。
    だけど、この本を読んで誰がそんなことが言えるんだろうか。ここに書かれてあることが真実でいいんじゃないかと僕は思った。リヴォンは15歳の頃からずっと一緒に苦楽を分かち合った兄貴だし、リックは大切な弟分で、リチャードとガースは尊敬する仲間だった。それでいいじゃないか。この長い自伝の中で、ロビーはメンバーの誰も悪く書いてはいない。ロニー・ホーキンズだってディランだって本当はもっと厄介な人だったかもしれない。だけど、批判したり非難したりは一切ない。自分が出会った人たちへの愛情と尊敬、この本に描かれているのはそれしかない。そして、素晴らしい仲間と出会い、素晴らしい作品を世に送り出したことへの喜びと誇りを描いている。特にウッドストックのピンク色の家の地下室で「ウェイト」ができた時を綴ったシーンには感動した。このシーンに感動しないザ・バンドのファンはいないだろう。たとえ、ロビーが強欲で金満家てエゴイストであったとしても、だからといってロビーを嫌いになれるわけがない。リアルタイムではないけど、ラジオで「アイシャルビーリリースト」を聴き、映画館で「ラストワルツ」を観て、「ミュージックフロムザビッグピンク」のレコードを夢中になって聴いてきたんだから。ザ・バンドが大好きなのに、ロビー・ロバートソンを嫌いになれるわけないじゃないか。


 自伝ではあるけど、この本の締めくくりは「ラストワルツ」である。だから「ラストワルツ」の経緯から当日、そして終演後までが最も長く描かれてある。そんな中での最終章のラストは、かなり悲劇的な結末であり、落涙必至である。ザ・バンド以降の活躍についてはここには一切書かれていない。語りたいことがあるとすれば、ホークス時代を含めたザ・バンドとして活動していた時代がすべてだと言いたいように。
 長いし高価だし、こんな10連休もの休みがなければ到底読めないような本ではあるけど、ザ・バンドのファンならぜひ読んでほしい。ロビー・ロバートソンが伝えたいと思ったことを読んで欲しい。それを切に願う。

 

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