また、風街で会いましょう。

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 昨日も書いたけど、日本武道館での松本隆さんの作詞活動50周年記念コンサート「風街オデッセイ2021」に行ってきた。4日と5日、2日間開催されて僕が行ったのは5日だった。申し込んだのは緊急事態宣言下でコロナの脅威に怯えていたような時だったので、チケットが当選して喜んだものの、本当に開催されるかどうかは半信半疑だった。だけど、緊急事態宣言も解除され、地雷を踏まないように暮らしていた最悪な状況からはなんとか脱した状況だったので、無事に開催されることになって本当に良かった。そして、出演者にご高齢の方も多いので、誰もコロナに感染しなくて良かったとも思った。
 3年前のエリッククラプトンの来日公演以来、久しぶりの武道館だったけど、観客の層はその時とあまり変わっていないか、もう少し若いか、といった高齢の方々が大半で、時折中年層と若者たちの姿が見られた。はっぴいえんどのステージを観たことがある、という人もいるかもしれない。その時、はっぴいえんどを聴いていた人たちは、解散後に松本さんが職業作詞家になって歌謡曲シーンで活躍する様を見て、なんて思ったんだろう。
 そんな事を考えながら、コンサートは17時30分の開演時間を少し回ってから始まった。1曲目はナイアガラトライアングルvol.2の「A面で恋をして」。歌ったのはこのユニットに参加した杉真理さんと、当時の佐野元春バンドのバンマスでvol.1のメンバーで大瀧さんの愛弟子だった伊藤銀次さん、そして大瀧さんのパートを歌ったのは鈴木茂さんだった。当たり前だけど1曲目から泣いた。こんな組み合わせが実現するんだ、このコンサートは。そう思うと感動したし、なんだかとんでもないところに来てしまったと感じた。その後も豪華なゲストが次々と登場した。松本さんの盟友である南佳孝さんが「スローなブギにしてくれ」と「スタンダードナンバー」を歌い、鈴木茂さんと林立夫さんを迎えて「ソバカスのある少女」をやった。そして林さんはそのまま残って、茂さんが「砂の女」と「微熱少年」をやった。エイプリルフールからの仲間である小坂忠さんが「しらけちまうぜ」と「流星都市」を歌った。涙が止まらなかった。レコードやCDでしか聴いていなくて、まさか生で聴けるなんて思いもしなかった曲が目の前で聴いてるんだから、泣かない方がどうかしている。どうしようもないので、ハンカチを膝の上に置いていた。こんな体験久しぶりだった。
 堀込泰行畠山美由紀ハナレグミがそれぞれソロで登場した後、3人で「真冬物語」を歌った。松本さんの活動45周年記念の際のトリビュートアルバム「風街であいませう」でクラムボンがカバーして知った「星間飛行」を中島愛が歌った。EPO竹内まりやさんの「セプテンバー」を歌った(当時高校生だったEPOはこの曲にコーラスで参加している)。その他、稲垣潤一、阿部泰弘、さかいゆう藤井隆(歌が上手いので驚いた)、星屑スキャットミッツマングローブが出ていた)、中川翔子、クミコといった人たちが登場したけど、圧巻だったのは吉田美奈子で、なんと松田聖子の「瑠璃色の地球」と「ガラスの林檎」を歌った。これは凄まじいもので、場内破れんばかりの拍手が起こり、コロナ対策でスタンディング禁止だったけど、そうじゃなかったらスタンディングオベーションになるところだった。井上鑑音楽監督としたバックバンドも見事な演奏だった。
 そして、この後にはっぴいえんどが登場した。中央で松本さんがドラムを叩き、細野さんがベースを弾き(細野さんが人前に出るのも久しぶりだ)、茂さんがギターを弾く。こんなシーンを観ることができるなんて夢のようだった。でも夢なんかじゃない。目の前に、大瀧さん以外のはっぴいえんどのメンバーがいて、はっぴいえんどを演奏する。興奮が最高潮に達した。バックは井上さんがピアノ、吉川忠英さんがアコギ、そしてはっぴいえんどのバックもやっていた鈴木慶一さんがオルガンを担当していた。「はないちもんめ」(アタマで茂さんが間違えてもう一回やった)をやった。慶一さんのボーカルで「12月の雨の日」をやった。茂さんがベースを弾いて、細野さんがアコギを弾いて、「風をあつめて」をやった。猛練習したという松本さんのドラムは見事だった。「僕がドラムを叩けばはっぴいえんどになる」と以前インタビューで語っていたように、まさにはっぴいえんどだった。もちろん、ずっと泣いていた。そりゃあそうだよ。「風をあつめて」のドラムを松本さんが叩いてて細野さんが歌っている。奇跡のような正夢だった。コンサートはこれで終了。最後に松本さんの挨拶があったけど、高校生の頃ビートルズを観た武道館で、自分がドラムを叩いていることを感慨深く語っていた。隣にいた細野さんに「細野さんリハに来ないんだもん」と苦笑したり、茂さんが「松本さん5年後もやろうよ」と言ったり、なんだか3人の絆を見た思いだった。正直言えば、この3人が会して演奏する様を観るなんてこれが最後だろうと思っていた。自分にとっても冥土の土産みたいなもんだと思っていた。だけど、5年後もまたはっぴいえんどが演奏している姿を見たいと思った。また観ることができるかもしれない。そう思った。77歳の松本さんがドラムを叩き、75歳の茂さんがギターを弾き、79歳の細野さんがベースを弾き、「風をあつめて」を歌う。その時は、僕も一緒に歌いたい。その時は僕も60歳。最高の還暦祝いだ。
 松本さんが描いてきた世界は永遠のものだ。小学生の頃からずっと好きで聴いていて、その後にはっぴいえんどを知って、歌謡曲もアイドルもロックもフォークもニューミュージックもJ-POPもアニソンも、僕の感性の大部分は松本さんに作ってもらったと言っても大袈裟ではない。だから、僕は風街の子どもみたいなものだ。ここに来て、松本さんにやっと会うことができた。夢が叶った。そんな気分だった。
 僕は2021年11月5日に松本隆がドラムを叩いているのを見たんだ。はっぴいえんどをやったんだぜ。一生の自慢にしようと思っている。