モータウンは永遠だ。

 ここんとこ、マイルスディヴィス、ザ・ バンドと音楽関係のドキュメンタリーが相次いで上映されているけ ど(単なる偶然なのかブームなのかわからないけど)、昨日は「 メイキング・オブ・モータウン」を観に行った。 今年で創業60周年を迎えるモータウンの軌跡~ 創業者ベリーゴーディの生い立ちとモータウン設立のいきさつ、 盟友でありモータウンの副社長としてクリエイティブを支えたスモ ーキーロビンソンとの出会い、楽曲制作の方法論、経営方針、 アーティストの発掘と育成など、 デトロイトのインディーレーベルから世界屈指のソウルミュージッ クのレコードカンパニーへと発展した経緯が、 所属したアーティスト(スモーキーロビンソン、f:id:yamagical:20201104203449j:imageティービーワンダー、 生前のマービンゲイ他)、ソングライター、スタッフ、 同時代に生き、 モータウンの隆盛をリアルタイムで見ていたアーティスト( アレサフランクリンなど) の証言を通じてその実像に迫っていく濃厚なヒストリーとなってい る。しかも、え、こんな映像が残っているの? というお宝映像が出るわ出るわで、レコーディングにしろ、 コンサートにしろ、 記録をちゃんと残して保管してあるところが偉いな、 と感心してしまった。貴重なインタビューがたくさんあるけど、 やっぱり創業者である社長のベリーゴーディと副社長( 今は違うかな) のスモーキーロビンソンが健在で元気でいることが大きい。
 もちろん、陽気なサクセスストーリーだけでなく、 60年代という時代背景があって、 ツアー中の出来事などを例に上げて、 黒人だからという理由でどれだけ不当な差別を受けてきたかも克明 に語られていた。 今はトイレひとつ取っても黒人用と白人用に別れていることはない けれど、 差別意識は根底からなくなっていない事実に暗澹たる思いがした。 また、これは不勉強で知らなかったけど、 モータウンは経営陣に白人がいたし、女性の役員がいたり、 レコードを出す際は会議で全員が意見を言い合って決めるという。 60年代としてはずいぶんオープンな社風で、 時代を先取りしていたことがわかった。 ゴーディもスモーキーも20代だったし、 若いからこその旧来のシステムにとらわれない斬新な発想で経営が できたのかもしれない。
 そして、公民権運動やベトナム戦争の激化に伴い、 モータウンも変わらなければならなくなったターニングポイントと して、マービンゲイの「ホワッツ・ゴーイング・オン」 が取り上げられていたのは映画のクライマックスとして白眉のシー ンであったし、 いつまでもお仕着せの楽曲と衣装でステージに上がることを嫌がっ たアーティストの代表としてダイアナロスが上げられていたり、 21歳のスティービーワンダーが契約を見直したい、 自分の楽曲を管理したいと言い出したのも印象的だった。思うに、 モータウンは会社ではあったけど学校のような存在だったかもしれ ない。会社であれば終身雇用も当たり前だけど、 学校だったら入学したら卒業もあり、 教師のいいつけに従って勉強し、行動するけど、 自己が目覚めたら自分のやりたいことがはっきりしてくるし、 教師に対して反抗することだってある。だけど、 反抗して飛び出していった生徒たちも、 時が経てばあの頃を懐かしく思い出し、 あの時の経験が大きな財産になったことを誇らしく語っている。 映画は、 ソウルミュージックファクトリーとしてのモータウンの全盛期を紹 介していくので、スモーキーロビンソン& ミラクルズからジャクソンファイブまでの期間に限定している( だからコモドアーズは登場しない)。その期間が、 モータウンモータウンらしい時代だったんだろうな。
 僕はこの映画が作られるにあたって、 下手するとベリーゴーディの自慢話ばかりになるんじゃないか、 と一抹の不安を持っていた。だけど、決してそんなことはなく、 豪腕にして辣腕、頑固なワンマン社長というイメージは希薄で( もっとも若い頃はイケイケで夜中の3時にスモーキーの自宅に電話 して『ショップアラウンド』 をレコーディングし直すから今から来いと言ったという)、 齢80を過ぎているからかすっかり好々爺のようで、 スモーキーとの会話は終始笑顔が絶えず、 観ていて微笑ましくあった。 特にマービンゲイが歌って大ヒットした「悲しいうわさ」 はもともと誰が先に歌っていたかで、 ゴーディとスモーキーの記憶が違うので100ドルかけることにな って、社員に電話をかけて確かめるシーンには笑った。
 この映画は、モータウンの楽曲を、 モータウンのアーティストを愛するすべての人に観て欲しい。 そしてソウルを愛するすべての人に観て欲しい。 ソウルミュージックの発展とそれに心血を注ぎ情熱をかけて取り組 んでいた人たちの業績をぜひ知って欲しい。 後世に残したい素晴らしい映画だ。
 しかし、 モータウンに社歌があるなんてこの映画を観るまで知らなかったな 。元社員がすっかり忘れていたり、歌うのを嫌がっている中、 ゴーディとスモーキーが楽しそうに歌っていたのがおかしかった。 スモーキー作なんだけど、ベタベタな社歌で、 よくこんなの作ったなと思った。