マジカルコネクションな日々.2 本屋とレコード屋のある街に暮らしたい。

    今日、僕にとって「日本一の古書店」だった本山の「シマウマ書房」が店を閉じた。と言っても閉店ではなく移転なので、またどこかの街で再開することを祈っている。だけど、僕が住んでる街からなくなってしまう悲しみは拭ようがない。扱うジャンルが日本と海外の文芸・エンターティンメント、音楽、映画、演劇関係、美術、料理、哲学と多岐にわたって揃っていて、雑誌もたくさんあり、ずっと探していた本を見つけたことも多かったし、こんな本があるんだという発見も多々あった。しかもお値打ち価格で、神保町の古書店だったら二倍はするんじゃないかという本や雑誌もたくさん見つけて買うことができた。近所にこういう古書店があるなんて言うまでもなく幸せな事だ。
    だから、今日は前から欲しくて買おうと思っていた本をまとめて買ってきた。小林信彦さんの晶文社から出していた映画エッセイ、ダシールハメットの評伝、吉行淳之介さんのエッセイと村松友視さんによる評伝、60年代のハヤカワミステリ、それとずっと探していた「リズム&ブルーズの死」という評論、それと76年のミュージックライフ(イギリスツアーから帰国したばかりの加藤和彦のインタビューが載っているた)。最後なので300円おまけしてくれて7000円だった。
 僕が本山に引っ越してきたのは1989年だったからちょうど30年前だ。大学を卒業して新しく住むにあたり、会社が本郷だったから東山沿線がいい、どうせなら時間があると遊びに来ていた本山にしようと思い、部屋を探したら駅徒歩10分以内で格安の物件があったのでそこに決めた。以来30年というわけだ。その当時は、新刊
書店が2店あり、バナナレコードとレンタルレコード店があり、銭湯が2店あり、家族経営のこじんまりしたパン屋と飲食店が何店もあり、ポストカードとアートブックを扱う店があり、古書店は5店もあった。本山というとおしゃれな街というイメージがあり、そのイメージは今もあるけど、僕はおしゃれさを求めて本山を選んだわけではなく、この街固有の文化が好きで、そこに惹かれていた。

    それから無印良品ができて、ゲオがあって、ビレッジバンガードができ、シマウマ書房もオープンした。30年(まさに平成の始まりから終わりだ)もあれば、その間いろんな店ができてはなくなり、地下鉄名城線の駅もできてアクセスがよくなったりした。当時からそのまま残っている店もいくつかあるけど、街の風景は随分と変わった。チェーン店が随分増えたけど、個人経営の雰囲気いい店もいくつかできてそれはそれでいいし、僕もその恩恵に預かっているけど、文化の街としての風情はだいぶ色あせてしまった。

   休日にバナナレコードでレコードやCDを漁り、無印で買い物して、ビレバンとシマウマ書房をハシゴして、ゲオでDVD借りて帰り、支度して銭湯に行く。という街を使い、嗜むという楽しさがなくなった損失はとても大きい。そして今日シマウマ書房が街からなくなってしまうわけだから、どんどんつまんない街になっていく。
    平成も終わる事だし、そろそろこの街との暮らしも潮時かなと真剣に考えてしまうけど、まだ新刊書店はあるし、家族経営の安くて美味しい寿司屋もあるし、生活するには便利だしなと現実に即して考えると、まぁいいかとも思ってしまう。
   本屋とレコード屋のある街に暮らしたい。欲を言えば銭湯があるといいし、美味しいパン屋と寿司屋と蕎麦屋があれば尚いい。スタバがなくていいけどミスドがあるといい。そんな街、どこに出かければ見つかるんだろう。タイムマシンに乗って7年前の本山に行きたい。